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 特別版 土壌&植物

Exhibition レポート

企画展 生き物に学び、くらしに活かす ―博物館とバイオミメティクス開催期間:2016年4月19日(火)~6月12日(日)

企画展 レポート

生き物に学び、くらしに活かす ―博物館とバイオミメティクス

2016年4月19日(火)~6月12日(日)

国立科学博物館(東京・上野) 日本館1階 企画展示室・中央ホール

企画展 生き物に学び、くらしに活かす ―博物館とバイオミメティクス

開催期間:2016年4月19日(火)~6月12日(日)

開催場所:国立科学博物館(東京・上野) 日本館1階 企画展示室・中央ホール

 

国立科学博物館にて2016年4月19日(火)~6月12日(日)の期間、企画展『生き物に学び、くらしに活かす ―博物館とバイオミメティクス』が開催。今回の企画展は、日常生活の中でいかに生き物の形態や能力が取り入れられ、最先端技術と結びついているかを、生物の模倣から学ぶ新しい学問、『バイオミメティクス』を軸に企画されている。

 

展示内容は、昆虫、植物、魚類、鳥類を中心にバイオミメティクスの実例とそのモデルとなった生物の標本が展示され、また「バイオミメティクス」研究における博物館が果たす役割と異分野の学術交流の役立つ情報科学技術などが紹介されている。

今回の企画展レポードでは、展示されている解説と共に展示されている標本を見ながら、バイミメティクス研究における、博物館の役割と研究に不可欠な異分野の連携にもスポットを当てて見ていくことにする。

 

企画展を7つの章で紹介

 

企画展の構成は、「1.なぜ今バイオミメティクスが注目されるのか」、「2.昆虫とバイオミメティクス」、「3.海洋生物とバイオミメティクス」、「4.鳥類とバイオミメティクス」「5.異分野の学術交流を支える技術」、「6.博物館標本とバイオミティクス」、「7.バイオミメティクスが示す未来」の7つの章から構成され、いまどうしてバイオミメティクスが注目され、どのように発展し今後未来にどのようにつなげていくかを、構造や、形態をその元となる標本と製品と共に紹介していた。

 

また、生活の中で必要とされる、親水・撥水、防汚、交通、色など生き物から学ぶバイオミメティクスのヒントを私たちに教えてくれる企画展でもある。

 

それでは、展示の内容を章ごとに見ていこう。

 

1.なぜ今バイオミメティクスが注目されるのか

 

初めのコーナーでは なぜ今バイオミメティクスが注目されるのかが、ヤモリの足、ハスの葉、カタツムリの汚れを落とす成分について解説されている。

 

まず、カタツムリの親水性外壁について、

カタツムリの殻の表面は、一見滑らかに見え常に清潔に保たれている。これは表面の細かいくぼみに雨水が入り込み、汚れを洗い流すことができる(自動洗浄)ためと考えられている。住宅機器メーカー(株)LIXILではこの仕組みをヒントに、汚れに強い外壁タイルを開発。

 

ヤモリやクモの構造接着

ヤモリやクモは、多くの昆虫とは異なり、足先から接着物質を出すことなく、垂直な壁や天井を自由に歩きまる。これらの生物の足先には、先端が細く枝分かれした毛がびっしりと生えており、壁面との間に働く分子間力(ファン・デル・ワールス」の作用で接着していると考えられていると言われている。このような作用を応用した、接着剤を使わない粘着シートなどが開発されつつあることを、足のSEM画像とともに解説。

 

ハスの葉表面の撥水性について、

 

浅い池に見られるハス(ハス科)の葉の表面は、落ちた雨水が空いた間になって転がるほど強い撥水性を持ってる。ハスの葉の表面を走査型電子顕微鏡( SEM)で観察すると、きわめて細かい凹凸がびっしりと表面を覆っていて、その原理をもとに繊維メーカーテイジンでは、撥水性の繊維製品を開発、販売している。

 

第二章の後半でも紹介されているが、今回の展示の特徴は、製品とその元になる生き物を合わせて紹介し解説していることと、SEM(走査型電子顕微鏡)画像を多用した、生物の微細構造に注目しているのが特徴だ。

次に、バイオミメティクスの歴史についてでは、研究対象の大きさに注目。年月によってどのように研究対象のサイズが変化がし現れてきたかを知ることができる。古くは15世紀からあったバイオミメティクスが最近 ナノメートルからマイクロメートルまでの間で焦点を合わせるとまだ未領域の部分があることを知ることができる。

 

歴史に関し解説では

 

「バイオミメティスク」という言葉が提唱されている以前から、生物の構造や機能を模倣して、工学に活かす試みはたびたび行われ。14~15世紀の科学者、レオナルド・ダ・ヴィンチは、鳥も模倣して、空を飛ぶ技術を開発してきた。また19世紀イギリスでは、フナクイムシ(軟体動物)が木材にトンネルを掘る方法に学んでシールド工法が発明され、現代につながる土木技術として生かされている。

 

バイオミメティクスという音葉は通常、生物の形態や構造、機能、能力などを模倣し、モノづくり、すなわち工学技術に応用することをいう。日本語では、「生物模倣技術」などと訳されている。バイオミメティクスという言葉は、1950年代後半に、アメリカの神経生理学者、オットー・シュミットによって提唱されたが、彼よりも以前にバイオミメティクスは実践されていた。その源流は、15~16世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチにまでさかのぼることができるとされている。

そのほかに、バイオミメティクスの実例として、フナクイムシのシールド工法、オナモミと面状ファスナーについて紹介。

 

フナクイムシをヒントにトンネルのシールド工法に

 

フナクイムシは木材の中にトンネルを掘って住んでいる貝の仲間で、体長20cmほどの細長い生き物をヒントにしている。フナクイムシは固い頭でトンネルを掘っていき、分泌物で後ろのトンネルを補強しており進む。フナクイムシに近いエントツガイという種類は、大きい1物は1m以上にもなり、熱帯アジアの海岸の砂の中にトンネルを掘って住んでいます。19世紀イギリスの技師ブルネイは、フナイクイムシの習性を参考に、現代でも採用されているトンネル採掘の技術であるシールド工法を提案し、テムズ川をくぐるトンネル工事を完成させた。

 

オナモミと面状ファスナーのしくみ

 

オナモミと面状ファスナーのしくみは、実に単純で分かりやすい、輪になった糸にカギ状の糸をひっかけるものだがそのヒントはオナモミにある。

日本国内でも見られるオナモミには幾つかの種類があり。もっとも多く見られるオオオナモミやトゲオナモミは外国からの人の手によって持ち込まれた外来種です。オナモミ類の種子はどの種類もたくさんの鋭いトゲが生えていて、トゲの先端がU字型に曲がっており、動物などの毛にひっかかりやすい構造になっています、この仕組みをまねた面状ファスナーの表面は、輪になった細い糸と、カギ状の太い糸の両方の種類がまじって植えつけられています。

 

ゴボウの種子から面状ファスナー

日本では「マジックテープ」という商標でよく知られている面状ファスナーは、海外では「ベルクロ」という名前で普及しています。この面状ファスナーは、野山を歩いた時に衣服によく付く、オナモニやゴボウといったキク科植物の種子の仕組みをまねたものだ。

 

2 昆虫とバイオミメティクス

 

次のコーナーでは、昆虫の色、光の透過反射光の低減、撥水性、低摩擦など複合的な機能を備える「モスアイ構造」SEM(走査型電子顕微鏡)についてかたられ、構造色の分野では実用化された様々な製品とその構造について展示されている。

 

まず昆虫についてだが、節足動物の大きな一群で、全生物の半分以上の種類をもつと言われる。昆虫のからだには、まだあまり知られていない、特殊な働きの構造が多数そなわっている。現在、これらを人間の工学技術にどのようにとり入れるか、大変に注目が集まっている。昆虫の構造やモスアイ構造はすでに実用化され始めている。

 

昆虫の構造色とその利用について

 

昆虫の多くには色素による色や模様を備えている、中には、体表面の微細構造による「構造色」を持つものが知られていて、南米のモルフョチョウや各種の構造色には、その発色メカニズムによって、「多層膜干渉」や「フォトニック結晶」など、いくつかの種類に分けられている。

 

昆虫のチョウの仲間は青い色素を持っていないが、どういうメカニズムで発色しているのかについてモルフォチョウを例に開設されている。

 

モルフォチョウの構造色とその利用

 

モルフォチョウは中南米に生息する大型~中型のチョウの一群。30種ほどが知られており、その中の多くの種は、オスの翅の表面が鮮やかな青色に輝き、この青色の輝きは、モルフォチョウの翅の表面を覆っている鱗粉の微細な構造によるものです。このように色素ではなく、微細構造による発色を「構造色」と呼ぶ、構造色には、いくつかのメカニズムが知られているが、モルフォチョウの青色は「多層膜

干渉」というメカニズムによることを知ることが出来る。

 

モルフォチョウの拡大写真

 

モルフォチョウの輝く青色は、オスだけに見られる場合と、メスにも見られる場合があり、どちらも翅の表側だけに見られ、裏側は地味な茶色であったり蛇の目模様があったりする。モルフォチョウの翅の青い部分を拡大して見ると、鱗粉が上下2層に並んでいる場合がある。この場合、上層が青い鱗粉でこれが構造色として青く光ることによって翅全体が青く見える。下層は構造色ではなく、黒っぽいか、白っぽい褐色です。このようないくつかの種類の鱗粉の色の組み合わせによってモルフォチョウの翅の色調が決まっている。

 

モルフォチョウをSEM写真で見てみる

 

モルフォチョウの青い構造色鱗粉は長径150ミクロン、短径80ミクロンほどの長方形で、根元から先端へ向かってたくさんの「すじ」がほぼ平行に走っていることがわかる。この筋はきわめて立体てきな構造をもっていて。一本の「すじ」は高さ2~4ミクロンで、両側に斜めに走る7~8本の棚をもつ。この棚の表面で反射した光が互いに作用し、青い光だけを強めっているので翅が青く輝く。このようにSEM写真見るとその構造をよく理解ですることが出来る。

 

昆虫の構造色を持つものでタマムシがいるが、タマムシの構造色はどのようなもので、どのような製品に使われているのか解説が続く。

 

タマムシの構造色とその解明

 

タマムシは甲虫のグループで、細長くて堅牢な体と短い触覚が特徴だ。幾つかの種類は、赤、緑、青の強い金属光沢のあるきらびやかな色彩に彩られており、英語では「ジュエル・ビートル(宝石の甲虫)」と呼ばれている。古代の日本でも宝飾材料として用いられ、法隆寺の「玉虫厨子」は国宝に指定。タマムシの金属光沢は外皮の表面を構成する20層ほどの薄膜の積層によって発色される構造色であることが知られている。

 

タマムシの表面の仕組み

 

透過型電子顕微鏡によって、生物表面の微細構造を観察することができる。きらめく青~緑の金属光沢をもつタマムシ成虫表面をSEMによって観察すると、厚さ50~150ミクロンの薄膜が18層ほど積み重なった構造をもっていることがわかる。この薄膜の層は、黒色色素であるメラニンを含んでいる薄い層と含まない厚い層が互いちがいに重なっている。この各層で反射した光の相互作用によって、青~緑の強い金属光沢が生み出される。科研費新学術領域「生物規範工学」B01-2班では、タマムシ表面を模倣した構造色塗装膜の研究開発をしていることが解説。

 

ではモルフォチョウの構造色やタマムシの構造色がどのように製品化されているかだが。構造色繊維モルフォテックス、や超多層膜フィルムMLFとして実用化につながっている。

 

世界初の構造色繊維モルフォテックス

 

モルフォチョウの翅が青く輝く原理を応用して、2003年に日本で、世界初の構造色繊維が開発された。それが帝人のモルフォテックス。一見ただの白い繊維ですが、製品になると太陽光や室内照明を受けて、モルフォチョウのような独特の青い光沢を発する。

超多層膜フィルムMLF開発

「モルフォテックス」の原理と技術は繊維製品ばかりではなく、近年、さまざまな樹脂製品にも応用されるようになった。特に最近の注目すべき効果が、超多層のフィルム「テイジンテトロンフィルム MLF」、MLF マルチレイヤーフィルムは、一定の厚さの透明な樹脂の薄膜が重なった構造を持っています。薄膜の厚さを変えることによって色素を含んでいなくても、さまざまな色を表現する。また、同じフィルムであっても、下地の色や見える角度によって色が変化する点が非常に興味ふかいものでもある。

 

モスアイ構造の多様性と多機能性

 

次にガやトンボなどからヒントをえた、光の透過反射光の低減、撥水性、低摩擦など複合的な機能を備える「モスアイ構造」について詳しく解説されていたのでみていこう。

 

まず「モスアイ構造」について、その名の通り、ガの複眼表面にある微細構造で光の透過、低反射性、超撥水性などの、複合的な機能を備えている。これは150~200ナノメートルほどの突起が規則的に配列する「ナノバイル」または「ナノニップ」という微細構造によって実現されます。最近ではモスアイ構造が、昆虫の複眼だけではなく、翅などの透明な部分にもあることがわかってきている。

 

モスアイ構造はガの複眼表面で発見

モスアイ構造は、昆虫表面に見られる微細構造であり、光の透過反射光の低減、撥水性、低摩擦、などの複合的な機能をもっている、モスアイとは「ガの眼」という意味で、このような構造が最初にガの複眼表面から発見されたことに由来している。実際にモスアイ構造は、直径100~300ナノメートルの突起に寄って「ナノパイル」または「ナノニップル」構造と呼ぶ。(1ナノメートル=100万分の1ミリメートル)

 

様々な場所にあるモスアイ構造

 

モスアイ構造は、複眼表面だけではなく、昆虫の様々な体表面にあることがわかってきている。セミやトンボの透明な羽の表面にもナノバイル構造が観察され、ガの複眼表面と同等の機能をもつと考えられています。セミやトンボの翅では、強い太陽光の反射を抑えることで天敵の目を逃れる、カモフラージュの効果があると考えられている、トンボのモスアイ構造は、セミとは異なり翅の表面から分泌される分泌物で形成、この構造はクロロホルムなどの有機溶剤に漬け込むと溶けて流れてしまい、光の反射が出てきてしまう。チョウやガの翅の透明部分にもモスアイ構造が見られることがあります。

本展で昆虫分野と全体統括を担当された、国立科学博物館 動物研究部 野村 周平 先生

モスアイ構造の機能とその利用

 

モスアイ構造には、複眼表面で光を透過するような効果がある一方、強い光の反射を低減し、外的から見えにくくする効果があります。また、微細な構造の性質上、超撥水効果を備えている。トンボの翅のモスアイ構造は有機溶剤で洗いながすと、膜面の反射が出て、撥水性が失われますこのほかにも、ありのような外敵の足先のカギ爪が引っかからないような効果があることがわかってきました。このような複合的なモスアイ構造の機能を人工的に再現し、工業製品に取り入れている、最近の開発例があることを知ることが出来る。

 

機能生フィルム 「モスマイト」

 

モスマイトは、モスアイ構造の原理を応用して開発された三菱レイヨン(株)の製品で反射を大幅に低減できる透明フィルム。モスマイトの表面は、釣鐘状の突起の間隔、1高さともにミクロン以下。モスマイトは、画像表面の反射を抑えて、画像の見え方をよくするような用途への利用が期待されている。

 

昆虫SEM写真のさまざまは試み

 

昆虫の体表面を走査型電子顕微鏡で観察し1撮影することは1940年代から実用化され、現在に至っています。その過程で、観察の精度を上げるためにさまざまな改良がされてきました。電界放出SEMはその一つであり、従来型のSEMはその一つであり、従来のSEMよりも、高い倍率で観察、撮影を可能にしました。また最近は、元素解析機能が付加されたSEMが急速に普及しつつあります。

 

走査型電子顕微鏡を使って、昆虫のからだを観察してみると、実態顕微鏡や光学顕微鏡ではみることができなかった、さまざまな微細構造を観察することがでる。これまでSEM観察は乾燥試料だけに可能だったが、これは、電子顕微鏡のチャンバーが高真空状態なので水分を入れると抜かれてしまうためだ。

しかし、薄い界面活性剤やプラズマの処理を用いる最近開発されたナノスーツ法によって、軟弱な試料や水分の多い試料、場合によっては生きた試料もSEM観察できるようになっている。以前であれば、ばらの表面がでこぼこになっている状態を見る事が出来なかったが、ナノスーツ法を使うとそのままのものがリアルに見ることが出来る。

また、この方法は人体の病理検査を行う、医療分野で威力を発揮することなどが映像とパネルで紹介されている。

 

SEM(走査型電子顕微鏡)とは

 

光学顕微鏡は光を利用して試料を観察するが、走査型電子顕微鏡は電子銃から放出された電子線を利用して観察する顕微鏡だ、光よりも電子の方が波長が短く、より細かい凹凸を観察することができる。

さらに電子線を照射された試料からは反射電子を特製X線と呼ばれるエネルギーが放出されるため、これらを利用することで結晶構造の解析や元素分析も可能となります。ただし、光を利用しないため色彩の情報は全く得られず、白黒写真になってしまします。また試料に電気がたまって製造な像に観察を妨げてしまう「帯電」という現象が起こることもあります。帯電を防ぐためには、試料表面を電動生の高い金属などで薄くコートする処理が必要になります。

 

このように、昆虫のバイオミメティクスでは、色彩、撥水、反射などをキーワードに昆虫の多様化した機能が私たちにどのように生かされているかを知ることができる。

 

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