学校法人 市川学園 山階鳥類標本展示室の歴史―鳥類標本が紡ぐ教育の精神
~探究心と伝統が育む未来への翼~
目次
- 学校法人 市川学園 山階鳥類標本展示室の歴史―鳥類標本が紡ぐ教育の精神 ~探究心と伝統が育む未来への翼~
- 1 学び舎の歩みと誇り―千葉から世界へ羽ばたく市川学園の軌跡―
- 2 受け継がれる建学の精神 ―「よく見れば精神」と「第三教育」が息づく学園文化―
- 3 学問で結ばれた親交と知の贈り物―創立者・古賀米吉氏と鳥類学者・山階芳麿博士の交流―
- 4 未来への知の宝庫―山階鳥類標本展示室―希少標本と学びが共鳴する空間のすべて―
- 5 理科教育の最前線―SSH校としての挑戦 ―探究型学習と高大・博物館連携の実践―
- 6 教育の現場から ―探究心を育む標本展示室の役割と実践―
- 7 最後に 伝統と革新が織りなす学びの未来
- ―取材を通じて見えた市川学園の真髄―
千葉県市川市に、閑静な住宅街の一角に広大なキャンパスを構える、学校法人市川学園 市川中学校 市川高等学校(以下「市川学園」と記載)がある。1937年(昭和12年)に市川中学校として創立され、戦後の1948年には市川高等学校を併設。以来、八十余年にわたり多くの若者を育て、今日では中高一貫教育を行う進学校として、千葉を代表する学園の一つとなっている。
創立者・古賀米吉氏が掲げた理念「第三教育」を土台に、学園は常に時代を先取りする教育を志向し、政界・経済界・学術界・芸術界など、卒業生の活躍は多方面に広がり、優秀な卒業生とその教育の質の高さが「市川ブランド」を支えている。
市川学園 卒業生の活躍のパネル掲示(市川学園歴史センター)
とりわけ理科教育への情熱は際立っている。2009年からは文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」に指定され、以来四期連続で認定を受けるという全国でも数少ない実績を積み上げてきた。探究型学習や大学・博物館との連携は独自の探究型指導法とも結びつくことで「市川モデル」※注釈 1とよばれ、理数系教育の拠点校として確固たる地位を築いている。
※注釈1 市川モデルとは
「市川モデル」は、市川学園がSSH(スーパーサイエンスハイスクール)指定校として作り上げてきた、独自の科学技術人材育成プログラム。第4期では、「自立的に取り組み、幅広い視野を持ち、新しい領域を切り開く生徒を育てる」ことを目指している。学際的な課題研究や、低学年からの技能育成にも力を入れているのが特徴。具体的には、高校1年の12月から課題研究が始まり、専門の先生による少人数制の手厚いサポートが受けられるようになっている。実験室は自由に使え、研究の発表機会も校内外で複数回用意されている。研究の評価基準が明確に示されており、倫理や安全面のルールも徹底されている。こうした環境の中で、生徒は自分のテーマに主体的・自立的に取り組み、探究心や問題解決力、コミュニケーション力を高めている。
この「市川モデル」は、地域にも発信されており、科学技術教育の発展にも貢献している。
参照サイト:市川学園 HP「 SSH概要」より https://www.ichigaku.ac.jp/ssh/about/
生徒課題研究論文集などが並ぶ
・山階芳麿博士との交流と山階鳥類標本展示室
こうした取り組みの源流には、学園創立期に築かれた人とのつながりがその根底にある。古賀米吉氏は英語教師として、世界的鳥類学者・山階芳麿博士の英語論文を助言・添削するなど、専門を超えた交流を重ねてこられた。その親交の証として、昭和14年12月、旧制市川中学校に博士自ら採集した鳥類標本が寄贈されたのだ。
山階鳥類標本展示室 入口からの全景
その後、標本は旧校舎の図書館に長らく保管され、平成15年新校舎移築の際に本展示室に移設。その後、平成19年には補修と洗浄が施される。この作業を担っていたのも、市川学園の卒業生で当時『我孫子市鳥の博物館』の時田賢一氏(市川高校23回卒)もその一人、標本は東京内田科学社の内田昇氏の協力により、学園の標本は次世代へと引き継がれる形に整えられた。
標本類展示の趣旨 解説
このように市川学園の山階鳥類標本展示室の歩みは、専門家や卒業生たちとの強い結びつきに支えられ学園の象徴的存在となっている。
市川学園を語るうえで欠かせないのが、その教育理念。長い歴史の中で磨かれた学園の根幹は「独自無双の人間観」「よく見れば精神」「第三教育」の三つの柱に集約されている。
古賀教育三本柱 掲示(古賀教育センター)
独自無双の人間観
ここでは、人間はだれでもたった一度の人生である。似ているようでもみんな違う。素晴らしい個性、特色、持ち味があり異なった個性を持っている。本来人間とはかけがえのないものだという価値観が本校の教育の基盤である。と記されている。市川学園では、入学式や卒業式などの節目ごとに、この理念が繰り返し語られ、生徒たちの自己肯定感を高める指針となっている。
よく見れば精神
松尾芭蕉の句「よく見ればなずな、花咲く垣根かな」を基にした理念で、よく見れば人目につかないかすかな花にも他の花とくらべることができない独自無双の美しさがある。教師が生徒一人ひとりに光をあててじっくりと「よく見る」ことで生徒に潜在している個性や能力を引き出す。「よく見れば精神」は本学教育の本源である。と書かれている。
表面をなぞるだけでなく、細やかに観察し、生徒たちが課題研究や標本観察に取り組むときも、この精神が息づいている。例えば、校舎の壁には生徒が探求し自らまとめた年度ごとの優秀な研究ポスターが並び、研究や課題の中で「よく見れば」の姿勢が自然と育まれその結果が優秀なポスターの掲示にもつながっている。
第三教育
親からの「第一教育」、学校での「第二教育」を超えて、自ら学び続ける「第三教育」を掲げている、「第三教育の主役は生徒本人。すべての生徒が、持って生まれたよいところを存分に伸ばし「随所に主となる」第三教育の達人を目指す。」
との一節からも、知識を与えられるのではなく、自らの意思で知を探究し続ける姿勢こそ、市川学園の教育の核心だと知ることができる。卒業生たちが社会の第一線で活躍する際にも、この「第三教育」の精神が支えとなっていることは、数多くの掲示から見ることができた。
これら三本柱は単なるスローガンではなく、校舎の随所に形を変えて息づいている。歴史センターや「第三教育センター」と名付けられた図書館、校舎の廊下に並ぶ研究ポスターどれもが学園の文化を可視化し、理念を日常の中に根付かせていた。
古賀米吉氏の人生は、教育者としての情熱に貫かれている。1891年、福岡県三井郡に生まれ、困難な家庭環境のなかで学びを重ね、東京外国語学校(現・東京外語大)、そして東京大学で英語、社会学を修める。さらにイギリス留学を経て、日本に理想の私立学校をつくるという夢を掲げ、市川学園を創立した。
その当時の記録は、「市川学園歴史センター」「古賀教育センター」「図書館にある学校史の書籍」などで知ることができる。
なずな芭蕉の句 (市川学園歴史センター)
設立前の史料 (市川学園歴史センター)
草創期の解説 (市川学園歴史センター)
古賀教育センター 解説
写真 古賀米吉氏 (古賀教育センター)
第三教育センター (図書館)
学校史 関連書籍 (図書館)
その過程で運命的に出会ったのが、鳥類学の権威・山階芳麿博士だ。いかなる過程で親交を深められるにいたったかは今では定かではないが、古賀氏は博士の邸宅を訪れ、長時間にわたり英語論文の執筆を支える。教師と学者という立場を超えた交流は、やがて深い親交にむすびつく。
鳥類学の権威・山階芳麿博士 解説 (山階鳥類標本展示室)
そして1939年(昭和14年)12月―創立間もない市川中学校に、博士は28箱もの鳥類標本と大型標本2体を寄贈した。その中には博士自身の手で採集された貴重なものもあり、今日では希少種となり入手困難となった種も含まれている。
古賀氏と山階博士のかかわりについて(山階鳥類標本展示室)
標本の中には、環境省のレッドデータリストに掲載されている希少種も含まれているので、紹介しておこう。
サンカノゴイなど、 絶滅危惧IB類(EN)
サンカノゴイ
オホソリハシシギ 絶滅危惧Ⅱ類 (VU)
左:オオソリハシシギ(チドリ目シギ科) 右:ヤマシギ(チドリ目シギ科))
シロチドリ 絶滅危惧Ⅱ類 (VU)
シロチドリ (チドリ目チドリ科)
学術的にも極めて高い価値を持つものが多数含まれている。
この標本群は、単なる教材以上の意味を持ち今日に至っている。それは、学園の「探究心」と「よく見れば精神」を表す、かけがえのない存在といえるだろう。創立者の理念を具体的に形にしたものでもある。古賀氏と山階博士の、異なる道を歩んだ二人の交流は、市川学園の教育の核を形作る大きな原点ともなっている。
ガラスケースには 山階芳麿葉博士寄贈 と書かれている
また、寄贈された標本は、時代を超えて生徒や教職員に知の財産として受け継がれている。山階鳥類標本展示室には、古賀氏と山階博士の交流を伝える解説パネルが掲示され、その歴史を知ることができた。こうした「知の贈り物」は、学園の伝統と探求心の象徴として、語り継がれている。
右側展示 (山階鳥類標本展示室)
左壁側 展示 (山階鳥類標本展示室)
中央奥 (山階鳥類標本展示室)
ここからは、あらためて本館2階にある「山階鳥類標本展示室」を見ていこう。ここを訪れると、まずその鳥の剥製標本の数と保存状態に見入ってしまう。そのことからも、ガラスケースの中にずらりと並ぶ剥製標本は、時代を超えて大事に受け継がれてきたものだとよく分かる。現在、その数は105個体(※1)。全国でも例を見ないほど充実した学校標本室である。(※1:展示室資料より)
・ガンカモ目ガンカモ科
中央:ハシビロガモ 左:ビロードキンクロ
左:ホオジロカモ 中:スズガモ 右:シマアジ
コオオリガモ 左:雌 右:雌
・野外観察では難しいサギやシギ
コウノトリ目サギ科 中:オオヨシゴイ 右:ヨシゴイ
・チドリ目シギ科
左:オオソリハシシギ 右:ヤマシギ
・チドリ目カモメ科
左:カモメ 中:ユリカモメ 左:ユリカモメ
・ツル目クイナ科
左:バン 雄若鳥 右:バン 雄
・フクロウ目フクロウ科
左:オオコノハズク 中:トラフズク 右:トラフズク
そしてスズメ目に至るまで、国内外の多彩な鳥が並ぶ。クロアシアホウドリやサンカノゴイといった希少種も含まれている。
・スズメ目ヒタキ亜科
左:キビタキ キビタキ 中:サメビタキ 右:オオルリ
展示室にはいくつもの工夫が凝らされている。入口の案内には、設立の経緯や山階博士と古賀米吉氏の交流が紹介され、見学者は標本の経緯や歴史的背景を知ることができる。
保存管理の面でも配慮がなされている。平成19年には全標本の補修・洗浄が行われ、標本の劣化を防ぐために、専門家によるメンテナンスも実施されており、長期的な保存を可能にしている。
・クロアシアホウドリ
さらに、標本の配置や説明ラベルには、工夫が随所に見られ、わかりやすく鳥の分類と多様性も知ることもできる。
マガモやオナガガモなど身近な種から、ビロードキンクロといった北方の鳥まで幅広く揃うカモ類。
入口から左側展示 (山階鳥類標本展示室)
野外観察では難しいサギ類やシギ類。
左:オナガドリ 右:ニワトリ
5 理科教育の最前線―SSH校としての挑戦
―探究型学習と高大・博物館連携の実践―
市川学園の理科教育を語るうえで、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の存在は欠かせない。2009年の初指定以来、四期連続という長期的な認定を受けていることは、全国的に見ても数が少なく質の高い理科教育が継続していることがわかる。
・SSH活動の柱
探究型学習では、生徒自ら問いを立て、実験や調査を通じて答えを導かれる。校内の廊下には「物理」「化学」「生物」「地学」「数学」「情報」の優秀な研究ポスターが並び見ることができた。
2024年度 優秀ポスター掲示 (校舎)
高大連携も盛んであり。東京大学や千葉大学などの研究室などとの連携では、生徒にとって先端技術を学ぶ場となり肌で感じる貴重な機会となっている。
博物館との連携では、国立科学博物館や千葉県現代産業科学館と協力し、専門の講師を招いて講義を実施するなど、生徒の知的好奇心や学びの深化を図る取り組みを行っている。
SSHを通じて育まれる力は、科学的思考力、課題発見力、そして発表力だ。市川学園の理念である「第三教育」「よく見れば精神」と重なり合い、独自の教育モデルを形づくっている。これら「高大連携」 「高研連携」「高博連携・高産連携」を重ねた教育方針は、生徒自ら問いを立て、主体的な学びの力を身につけていることに違いない。
「物理」「化学」「生物」「地学」「数学」「情報」 各分野ごとのポスター
学校法人市川学園 市川中学校 市川高等学校 SSH部長/生物科
庵原仁先生インタビュー
ここからは、市川学園SSH部長で生物科教諭の庵原仁先生に、山階鳥類標本展示室についてインタビューしていきます。展示室がどのような設立経緯をもち、どんな歴史を持っているのか、そして生徒たちの学びの場としてどんな役割を果たしているのかを伺います。標本を間近で観察することが生徒の探究心や科学的な観察力につながること、学校の教育理念やSSH校としての取り組みとの関係について、庵原先生にお話を聞きしていきます。
・山階鳥類標本展示室の理念・設立経緯
記者:山階鳥類標本展示室の設立経緯や設置に込められた理念についてお聞かせください。
庵原先生:本校の創立者の古賀米吉は英語の教員で、過去にはイギリスにも留学していて非常に堪能だったと聞いています。山階博士が英語で論文を執筆する際に、米吉が英文作成の手伝いをしていたという縁があり、学校を作る際に「生徒たちに鳥の標本を見てほしい」ということで、山階博士から標本を寄贈されたと聞いています。
・創立者の精神と運営への息づき
記者:山階芳麿博士や市川学園創立者 古賀米吉氏の精神は、標本展示室の運営や活動にどのように息づいていると感じますか。
庵原先生:本校の建学の精神には「よく見れば精神」というものがあります。芭蕉の「なずな」の俳句にあるように、地味な「なずな」でもよく見ればいいところはあるという考えです。物事をよく観察することが非常に大事だと言われています。標本を間近に、普段も公開されているので見ることで、生徒たちは普段気づかない鳥のいろんなところに気づくことができると考えています。
・SSH(スーパーサイエンスハイスクール)との関係
記者:山階鳥類標本展示室とSSHの関係や成果についてお伺いします。市川学園がSSH指定校となった背景には、どのような教育観や理念が影響しているとお考えですか。
庵原先生:SSHでは探究的に活動していくことが求められています。本校の建学の理念には「第三教育」というものがあり、自分で自分を教育していく、自ら学び続けるということが挙げられています。探究はまさに生徒が自分で問いを見つけて、それを深めていく、自分で自分を教育しながら進めていく活動ですので、本学の建学の精神と非常にマッチしている取り組みだと思っています。
・標本展示室での体験・研究による生徒の成長
記者:標本展示室での体験を通じて、生徒たちはどのように科学的思考力や探究心を身につけていると感じますか。
庵原先生:標本とちがい、(自然の中では)当然ですが、鳥を近くで見ることができないです、標本という形で間近に見ることができます。鳥についてより詳しく知ることができますし、図鑑と違っていろんな角度で見ることができるので、新たな気づきがあります。なぜ鳥はこういう構造なのか、こういう形なのか、そういったことが探究心を高めるきっかけになっていると思っています。
・標本展示室とSSHの活動の連動
記者:既存の枠組みを超え、自ら問いを立て、解決策を創造する力を育てる上で、標本展示室とSSHの活動はどのように連動していますか。
庵原先生:課題、問いを立てるというところで、この標本展示は非常に有効であると思っています。
・鳥類標本の意義と活用
記者:鳥類標本の科学的・教育的意義について改めてお話いただけますか。
庵原先生:鳥類は屋外では近くで見ることができないので、こうして間近で鳥の体を観察できるという点で非常に意義深いと思います。
・標本の保存・公開の工夫と課題
記者:標本の保存や公開に際して、特に工夫している点や今後の課題があればお聞かせください。
庵原先生:この標本展示室は普段も公開されていて、学校生徒だけでなく、学校に来た保護者や来校者は自由に見ることができます。ただ、学校に来た人には見ていただけますが、来ないとわからないという点で、広報的にはまだ十分にアピールできていない課題があります。
・教育研究普及活動・生徒への期待
記者:標本展示室やSSHの活動を通じて、生徒たちにどのような成長や価値観を期待されていますか。
庵原先生:物事をよく見る目を養ってほしいと思っています。さらにその中から自分なりの問いを見つけてほしい。そういう力を標本室などで培っていければいいかなと思っています。
・他機関との連携について
記者:SSH設置校としての各機関との連携についてお伺いします。高大 博物館連携などについて教えていただけますか。
庵原先生:大学であれば、東京大学、千葉大学など近隣の大学と連携しています。博物館では国立科学博物館、千葉県現代産業科学館などと連携しています。
・現在の取り組みと今後の展望
記者:現在実施していることや今後の展望についてお聞かせください。
庵原先生:各大学では本校の生徒を受け入れていただき、研究室での実習などを行っています。博物館に関しては、国立科学博物館では毎年講師の方を派遣していただき、本校で生徒向けの講座を開いています。今後は、こちらが博物館の方に出向いて探究的な活動を展開できればいいかなと思っています。
・今後の展望とメッセージ
記者:標本展示室やSSHの活動を通じて、次世代に届けたいメッセージがあればお聞かせください。
庵原先生:生徒には探究心を持って、教科書だけでなく、実物に触れながら学ぶ姿勢を身につけてもらいたいと思っています。
記者:山階博士や古賀米吉氏の精神を未来のためにどう大切にしていきたいですか。
庵原先生:本校の建学の精神は将来の生徒にとっても大事なものだと思っています。自分で自分を教育する「第三教育」や、物事をよく観察する「よく見れば精神」を大事にしていきたいと思っています。
学校法人 市川学園 市川中学校 市川高等学校 SSH部長/生物科 庵原仁先生
7 最後に 伝統と革新が織りなす学びの未来
―取材を通じて見えた市川学園の真髄―
今回の取材で強く感じたのは、市川学園の山階鳥類標本展示室が単なる「学術コレクション」ではないということだ。それは創立者・古賀米吉氏が掲げた「第三教育」と「よく見れば精神」を体現する教育空間であり、学園文化の象徴でもあった。
山階博士との交流から生まれた標本群は、八十余年の時を経てもなお生徒の探究心を刺激し続けている。現在もSSH活動や高大・博物館との連携と結びつきながら、市川学園独自の課題研究指導法である「市川モデル」が形成されてきた。この市川モデルは、SSHで培われた探究型教育や課題研究のノウハウを体系化したもので、生徒が主体的に学び、探究する力を育むことを目指した教育モデルだ。こうした取り組みが、伝統と革新をつなぐ架け橋としての役割を果たしていると感じた。
一人ひとりの個性を尊重する「独自無双の人間観」は、芭蕉の句に込められた「よく見れば」の精神と呼応し、生徒たちの観察力や探究心を支えてきた。
市川学園はこれからも、山階鳥類標本展示室の存在を知と友情の継承として、生徒たちに教育の場を広げていくのだろう。伝統に根ざしながらも未来へ向けて羽ばたく姿勢―そこにこの学園の真髄があると確信した。標本室が生み出す「知の連鎖」は、世代を超えて新たな探究の翼となり、学び舎の未来を力強くアピールしているように感じた。
取材協力
学校法人 市川学園
市川中学校 ・市川高等学校
公式サイト:https://www.ichigaku.ac.jp/
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